悲劇の花魁が遺した看護の灯
明治時代、品川の遊郭に「夕凪」という名の女郎がいた。彼女は年季明け前に男と駆け落ちし、姿を消した。
ところが、時を経て、一人の看護婦見習いの前に再び現れることになる。
寝苦しい夜が、これひとつで快適にAirio Pro その見習いの名は、東雲ゆき。彼女は患者の死に直面し、深く傷ついた。
「私は人の生き死に関わる仕事ができる人間じゃない。患者さんのために看護婦にならないほうが誠実だ。」
ゆきはそう言って、実習を離れた。疾風に倒れかけたのだ。
しかし、バーンズ先生がそばに来て言った。「疾風に勁草を知る、という言葉を知っているか。困難な時こそ、真の強さが試される。」
ゆきはその言葉に励まされ、立ち上がった。彼女は勁草となったのだ。
残された見習いたちは、ゆきの分も頑張ろうと誓う。その中に、大家直美がいた。彼女は幼い頃に教会の前に捨てられた孤児だった。首には、捨てられた時から下げているお守りがあった。
直美はときどき、そのお守りをいじった。そこには自分の過去を解く鍵があるような気がした。
ある日、直美が町を歩いていると、すれ違いざまに初老の男性が声をかけてきた。
「夕凪か?」
直美は驚いて立ち止まる。男性は直美の顔をじっと見つめ、「いや、夕凪が生きていたらもっと年上だから、あなたのはずはない」とつぶやき、去っていった。
直美はその言葉が頭から離れなかった。同僚の小日向寛太に相談し、調査を依頼する。寛太は遊郭に通い、情報を集めてきた。
「夕凪という女郎は存在する。二十五年前、品川の遊郭・錦栄楼で働いていた。けれども、年季明け前に男と駆け落ちした。」
直美は胸が騒いだ。自分を捨てた母親が、もしかするとこの夕凪なのか。病院で働くうちに、生死に関わる多くの人々と向き合い、自分を産んだ母親に会いたいという思いが募っていた。
「自分を産んだ母親に会ってみたい。」
直美は寛太にそう打ち明けた。
その時、病院に緊急の知らせが入る。服毒自殺を図った男女が運ばれてきたという。女性は女郎で、名を「夕凪」といった。
直美は息をのんだ。患者の夕凪は、自分より少し年上に見える。母親にしては若すぎる。しかし、同じ名前の女性が目の前に現れたのは、偶然とは思えなかった。
「なぜ、あなたも『夕凪』なの…」
直美は心の中で問いかけた。
直美は医師と共に夕凪の治療に当たった。胃の中を洗い、必死に命をつなごうとする。その手は冷たかったが、かすかに鼓動が伝わってきた。
直美は考えた。駆け落ちした夕凪は、その後どうなったのか。もし子供を産んでいたとしても、この患者の年齢なら娘である可能性は低い。だが、同じ名前を持つ女郎が、偶然にも病院に運ばれてくるとは思えなかった。
この「夕凪」という女郎のモデルは、実在の遊女「花紫」だと言われている。花紫は、明治の遊郭で働きながら、病に倒れた遊女たちの看護に尽力した女性だった。
原案の伝記『明治のナイチンゲール 大関和物語』には、遊郭の悲劇が看護の原点となったことが描かれている。花紫のような女性たちの苦闘が、やがて近代看護の礎を築いたのだ。
直美は、ベッドに横たわる夕凪を見つめた。遊郭という過酷な環境で、それでも人を助けようとした女性の姿が、自分の中に重なる。孤児として育った直美もまた、人の命と向き合う仕事を選んだ。
その眼差しは、どこか夕凪と似ていた。もしかすると、血のつながりではなく、同じ使命に導かれた者同士なのかもしれない。
直美はそっと夕凪の手を握り、自分のお守りに触れた。二つの運命が、今ここで交差している。看護という仕事が、彼女たちを結びつけたのだ。
夕凪(花紫)が遺したものは、看護の未来への架け橋だった。そして直美は、その橋を渡る一人の看護婦として、新たな一歩を踏み出そうとしていた。
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